評価損とは
■評価損とは
評価損とは、事故前の車両価格と修理後の車両価格の差額(事故による自動車の価値の低下)のことをいいます。
事故により自動車の価値が低下する評価損には2つの種類があります。一つは、技術上の評価損(技術上の限界から修理によっても回復できない、外観・機能に欠陥が残存する場合)ともう一つは取引上の評価損(事故歴があるという理由で商品価値の低下する場合)です。技術上の評価損がある場合、自動車の商品価値の低下は明らかですので、価値の低下分を賠償すべきとの点についてほぼ争いはありません。取引上の評価損については、判例上、肯定否定例とも多くあります。
■評価損の算定方法
評価損をどのように算定するかについては、判例上、決まったものはありませんが、修理費の割合をもって評価損(3割程度)とするものが多いようです。これによれば、たとえば修理費用が100万円であれば、評価損はその3割で30万円ということになります。
裁判では、事故によって自動車の価値が下がったことを証明する必要が出てきます。証明の一つの方法としては、財団法人日本自動車査定協会の審査員による事故減価証明書というものがあります。また、評価損は、修理費を基準に認定されることが多いですので、修理見積書(修理が終わっている場合はその明細書)が必要となります。
■評価損が認められやすいケース
評価損が裁判で認められるには、登録後の年数、走行距離に制限があるとされています。外国車・国産の人気車種では5年(走行距離6万キロメートル)、国産車では3年(4万キロメートル)以上経過すると評価損を認められにくくなるとの指摘があります。
裁判では、評価損が修理費に対する割合で認められる場合、新車に近いほど、また高級車であるほど修理費に対して高い割合で評価損を認める傾向にあります。逆に交渉段階では、保険会社は評価損をあまり認められたがらない傾向にあり、認める場合でも修理費の1、2割といったところになっています。
■評価損肯定の裁判例
・大阪地裁 平23(ワ)5629号
初度登録から約5か月、走行距離9,099kmのレクサスLS 修理費用の40%相当額を認めた事例
・名古屋地裁 平20(ワ)6066号
初年度登録から2年9か月、走行距離47,365kmのアウディ 被害車両の評価損として、修理費用の1割強を認めた事例
・岡山地裁 平20(ワ)566号
初年度登録から2年6か月、走行距離27,071kmのメルセデスベンツSクラスAMG 修理費用の約35%の¥200,000を評価損として認めた事例
・名古屋地裁 平18(ワ)3298号
初年度登録から3年8か月、走行距離約57,000kmのメルセデスベンツML320 市場価格の下落分として修理費用の20%、¥200,000を認めた事例
・大阪地裁 平17(ワ)7854号
ランボルギーニ・ディアブロSE30 修理費用の30%の¥2,080,000を評価損として認めた事例
・東京地裁 平16(ワ)3684号
初年度登録から1年、走行距離26,438kmのメルセデスベンツS500Lの評価損として被害者主張の¥929,000を認めた事例
■評価損否定の判例
・名古屋高裁 平21(ネ)722号
初年度登録から1年10か月のランボルギーニ・ムルシエラゴ 修理上の評価損について価値の減少は認められず、取引上の評価損も認定できないとして、評価損を認めた原判決を取り消し、評価損を否定した事例
・東京地裁 平14(レ)481号
初度登録から2年弱、走行距離45,814kmのフォルクスワーゲン・ゴルフ 走行距離が比較的多く、損傷部位および程度も比較的軽微であることを理由として否定した事例
・名古屋地裁 平11(ワ)865号
登録年、走行距離は判決上不明のポルシェ911カレラクーペ 被害車両の状況に照らし、被害車両に修理後も回復できない損傷があるとは認められないから、被害車両に本件事故による格落ち損があるとは認められないとした事例
・東京地裁 平9(ワ)7672号
メルセデスベンツ300CE 初度登録後事故から5年を経過していて事故による格落ち自体を想定しにくいほか、被害者の評価損の主張に具体性がないとして評価損を認めなかった事例