労災請求について

動車事故が労災事故にあたる場合、労災保険と自賠責保険のどちらを先に請求すべきか

交通事故による人身傷害を負った場合、当該事故が業務災害又は通勤災害であれば、労災保険の給付により賠償金を受領することができます。自賠責保険の支払先行が原則となっていますが、被害者が先に労災保険の給付を希望する場合は認められています。被害者が労災保険の給付を希望しているにもかかわらず、会社が労災保険の申請を渋るようなことは絶対にあってはなりません。

 労災事故の種類

労災事故には業務災害と通勤災害があり、労災保険を請求するためには、交通事故による人身傷害が業務中又は通勤中に発生したことが必要となります。業務災害の場合①業務遂行性と②業務起因性の要件が必要となります。通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害または死亡をいいます。この場合の「通勤」とは、労働者が仕事をするために、住居と就業の場所の間を、往復経路を逸脱したり、往復を中断することなく、合理的な経路および方法で往復する行為をいいます。したがって、事故の発生が業務外の場合(2つの要件を満たさない)や通勤経路を外れた場合には、保険支給の対象外となります。通勤中あるいは会社等から自宅までの帰宅の途中に交通事故に遭うというのはよくある状況ですので、通勤災害の場合に自賠責保険との関係がよく問題となります。

労災保険と自賠責保険

では自賠責保険よりも労災保険を先に請求する実益はあるのでしょうか。

慰謝料が労災では認められないが自賠責では認められる、休業損害は労災では6割しか填補されないが自賠責では10割(ただし1日当たり1万9,000円が上限)填補される等、自賠責のほうが被害者にとり有利な部分があります。

他方で、労災は支給額につき被害者の過失割合を問題としないが、自賠責は過失割合が7割以上の場合最大5割の減額があること、自賠責は傷害の場合につき支給額の上限が120万円であること等、労災の方が被害者にとり有利な部分もあります。

このように、被害者側の過失割合が大きい場合で、損害額が120万円を超えそうな場合でかつ加害者が任意保険に加入していない場合は、労災保険の請求を先にしたほうがよいと言えますが、慰謝料と休業損害の点で自賠責のほうが断然有利ですので、通常は自賠責のほうを先行させることが多いでしょう。

もっとも、加害者が任意保険に加入している場合は、自賠責の傷害の支給額上限は問題にならないため、任意保険会社が医療機関の治療費や慰謝料などをまとめて支払う「一括払い」を利用することが多いでしょう。この場合でも労災の特別支給金は損益相殺されませんので(2重払いにあたらない)、時期が遅れても労災の請求は行うようにしましょう。

労災保険と自賠責保険の給付費目が重複するものと労災保険独自のもの(特別支給金など)がありますが、当然ですが、重複するものを労災保険と自賠責から2重に支払いを受けることはできません。ただ、労災保険には自賠責にはない特別支給金がありますので、自賠責保険だけではなく、労災保険の給付も必ずあわせて申請しておくべきです。

第三者行為災害届とは

労災保険は、労働者が業務災害又は通勤災害により負傷等した場合にその労働者又は遺族に所定の保険給付を行う制度です。この業務災害又は通勤災害が労使以外の第三者によって発生する場合があります。このような災害を第三者行為災害といいます。労働者が通勤途中で交通事故に遭った場合などは典型的な第三者行為災害です。

そして、労働者が第三者行為災害に遭った場合は、一般の保険給付請求の手続に加えて、労働基準監督署長宛の第三者行為災害届の提出を要件として、労災給付を受けることができます。第三者行為災害届には、添付書類として交通事故証明書、念書、保険金支払通知書などが必要となります。書式や書き方については、最寄りの労基署で相談することができます。

労災申請に使用者が協力しない場合

労災保険の申請には事業者の協力が必要となってきますが、事業主が労災保険の申請手続に協力しない場合は被害者が直接その旨を管轄の労働基準監督署に申告し、救済を受けることもできます。事業主が未届で、労災保険料を支払っていない場合であっても被害者自らが労災保険を申請することもできます。