過失相殺の基準

交通事故については、事故の態様、類型に応じた一応の目安となるものが発表されています。最も一般的で、かつ裁判所においても用いられている基準が、東京地裁民事交通訴訟研究会編集の「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」です。同基準は、現在、全訂5版が出版されており、それによると、歩行者と四輪車・単車との事故、歩行者と自転車との事故、四輪車同士の事故、単車と四輪車との事故、自転車と四輪車・単車との事故、高速道路上の事故、駐車場内での事故に分けて、それぞれの事故態様に応じた過失割合率の基準を明らかにしています。歩行者と自転車の事故、駐車場内での事故が全訂5版になり追加となっています。

どの基本類型に当てはまるかという大枠については、当事者の認識が一致していることが多いですが、細かな修正要素については当事者の認識が異なることがよくあります。修正要素が問題となる場合は、事実認定の問題になりますので、刑事記録中の警察の実況見分調書などの客観的な証拠や目撃者の証言などによって認定していくことになります。ただ、当事者の供述がくい違い、どうしても納得しないということもありますので、そのような場合は、任意交渉での解決が難しくなり、第三者すなわち裁判所の判断によることになります。

同書では、各事故類型について、基本の過失相殺率・過失割合が定められており、また、修正要素(過失相殺率が増減する要素)を各類型毎に詳細に定められています。もっとも実際に起こる事故は千差万別ですので、すべてこれで対応できるわけではありません。

その他にも、毎年2月に最新版が発行される、日弁連交通事故相談センター東京支部編の「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)があります。ただ、大阪地裁では、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」のほうがもっぱら使われている印象です。

上記の2冊はいずれも一般的な事故類型について、基本的な過失相殺基準を定めたものにすぎず、過失割合は当該事故の具体的態様に照らして、それぞれの当事者の注意義務の内容、注意義務違反の程度等に照らして判断されるべきものですので、基準はあくまでも目安程度と考えるべきです。